第6回|「子どもに不動産を残したい」その前に

「子どもに不動産を残してやりたい」
それは親としてごく自然な思いかもしれません。

これまで大切にしてきた土地や建物、収益を生む賃貸物件――。
将来、子どもが相続し、役立ててくれたら…という希望を抱く方も多いでしょう。

しかし、不動産は「資産」であると同時に、「負担」になることもあるのです。
実際、相続をきっかけに家族間でトラブルが起きたり、管理や処分に悩むケースも少なくありません。

今回は、不動産を「残す側」として知っておきたい5つの視点をお伝えします。

📌 子どもは本当に“欲しい”と思っている?

親としては「長年守ってきた不動産だから子どもに残したい」という気持ちは自然なものですが、子ども世代の生活状況や価値観は、親世代とは大きく異なる場合があります。

たとえば、

  • 子どもがすでにマイホームを購入している
  • 実家から遠方に住んでいて、戻る予定がない
  • そもそも不動産管理に興味がなく、できれば現金で受け取りたい

といった状況であれば、せっかく残しても活用されず、空き家や負動産になってしまう可能性もあります。

実際、相続した不動産を「放置したまま」になってしまい、固定資産税だけ払い続けている…という相談も少なくありません。

💬 まずは、子どもとの対話を。
「将来、もしこの物件を相続したらどうしたい?」
「管理できそう?売るつもり?住む予定ある?」
という具体的な質問で、本人の意思を確認しておくことが何より大切です。

親の不動産、子どもは本当に“欲しい”と思っている?

📌 共有名義にしても大丈夫?

「子どもが2人だから2分の1ずつ」「平等にしておけば安心」…と思いがちですが、不動産の“共有”は後々のトラブルの元になりやすいのが実情です。

共有名義の問題点

  • 誰か1人だけで勝手に売ったり貸したりできない(全員の同意が必要)
  • 管理費や修繕費を誰が出すかで揉める
  • 連絡がつかない共有者がいると、管理・処分がストップする
  • 相続が続くと“数次相続”でさらに複雑に(共有者が増えて収拾がつかない)

▶ 特に注意すべきは、「1人が使いたい」「もう1人は売りたい」など意見が分かれたときに前に進まなくなることです。

💡 解決策としては

  • あらかじめ「誰が引き継ぐか」を決めておく(遺言書など)
  • 共有にせず、現金等でバランスをとる
  • 生前贈与などで早めに分配の方向性を示す

「争族」を避けるためにも、“平等”より“機能する形”での分け方を考えることが重要です。

不動産、 共有名義にしても大丈夫?

📌 修繕・管理の費用は見積もられている?

不動産を相続すれば、その維持管理も当然引き継がれます。

表面的には「資産」でも、維持費の負担が重ければ「お荷物」になってしまいます。

実際にかかる費用例

  • 🔧 原状回復費用(退去後の清掃・クロス張替え・設備交換)
  • 🏗 大規模修繕費用(屋根や外壁、共用部の修繕)
  • 🔁 経年劣化に伴う設備交換(給湯器・エアコン・トイレなど)
  • 💸 空室中の固定資産税・火災保険・水道基本料
  • 📉 家賃下落や空室による収入の変動

こうしたコストは目に見えにくいため、事前に「収支シミュレーション」を作って見える化することが大切です。

💡 可能であれば、修繕履歴や管理状況をまとめた「資産引継ぎノート」のようなものを作成しておくと、子どもが引き継いだときの安心感が違います。

不動産の修繕・管理の費用は見積もられている?

📌 相続税や名義変更の手続きは準備できている?

不動産の相続には、金銭的にも事務的にも想像以上の労力がかかります。

よくある手続き・費用負担

  • 📜 相続税申告(相続開始から10か月以内/納税は現金)
  • 🏢 名義変更登記(法務局での手続き/登録免許税)
  • 📬 各種契約変更(管理会社・電気・水道・保険等)
  • 🏦 金融機関や税務署への連絡・書類提出

▶ 相続税の納税原資が現金で用意できないと、「不動産を売って納税せざるを得ない」という事態にも。

💡 対策としては、

  • 生命保険(受取人を子どもに)で納税資金を準備
  • 家族信託でスムーズな管理・相続を実現
  • あらかじめ「誰に何を渡すか」を遺言書で明記

など、“不動産+手続き+現金”をセットで引き継ぐ設計をしておきたいところです。

不動産の相続税や名義変更の手続きは準備できている?

📌 将来的に“手放す”という選択肢も含めておく

「子どもが大切に持ち続けてくれる」と思っていても、時代の変化やライフスタイルにより、思うようにいかないこともあります。

  • 子どもが海外赴任や転勤族
  • 空き家になったまま再活用できず固定費がかさむ
  • 相続後すぐに売却したい希望が出る

そのためには

▶ こうした状況を前提に、「将来、売却や活用しやすい状態にしておく」ことが非常に重要です。

  • 登記名義を明確にしておく(単独名義が理想)
  • 境界確認や測量をしておく
  • 物件資料や契約書類を整理し、引継ぎファイルを作成しておく
  • “売るときの価格”や“近隣の取引事例”なども記録しておく

不動産を残すのは「気持ち」だけでなく、「準備」が伴ってこそ。
大切なのは「手放すことになっても困らない」状態で渡すことです。

将来的に不動産を“手放す”という選択肢も含めておく

まとめ:“思い”と“現実”のバランスをとる

不動産を子どもに残すことは、単なる資産継承ではありません。
そこには、管理・費用・手続き・責任がセットでついてきます。

だからこそ、

子どもの意志を聞く

不動産の管理・収益性を見直す

トラブルを回避する準備を整える

といったステップを踏んでこそ、「ありがたい贈り物」になるのです。
「子どもに残してよかった」とお互いに思える未来のために、今できる準備から、少しずつ始めてみませんか?

次回は、第7回|「法人化した方が得?個人との違いをざっくり解説」です。
賃貸経営を続けていく中で、「そろそろ法人にした方がいいのかな?」と考える方も増えてきました。

法人化すれば節税できる?
相続や資産継承にもメリットがある?
でも手間や費用は…?

不動産賃貸業における「個人」と「法人」の違いを、ざっくりわかりやすく解説します。

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第1回|賃貸経営って本当に儲かるの?
第2回|賃貸経営の収支シミュレーションってどうやるの?
第3回|「アパート建てませんか?」その提案、すぐ乗って大丈夫?
第4回|確定申告、青色と白色って何が違うの?
第5回|空室が心配…まず何から見直す?
第6回|「子どもに不動産を残したい」その前に(この記事)
第7回|法人化した方が得?個人との違いをざっくり解説
第8回|サブリース契約って実際どうなの?
第9回|相続した実家、貸す?売る?どう決める?
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