以前のブログでは、
「相続放棄をしても最低限の管理義務が残る」という大枠の仕組みをご紹介しました。

でも実際には、

  • 何をすれば“最低限の管理”なの?
  • どこまでやれば十分なの?
  • 放っておくとどうなるの?

といった疑問を持つ方がとても多いのが現実です。

そこで今回は、相続放棄後の管理について、
現場でよくある誤解・相談内容・実際に必要な行動を、できるだけ分かりやすくお伝えします。

相続放棄後に多い3つの誤解

誤解①:相続放棄したら、その家にはもう関わらなくていい
 → 実際は、次の管理者に引き継ぐまでの“最低限の管理”が必要です。
  放棄した瞬間にゼロになるわけではありません。

誤解②:管理義務=所有者と同じレベルの責任
 → 違います。
  求められるのは、あくまで
  「周りに迷惑がかからないようにするための簡単な管理」
  です。大規模な修繕やリフォームは不要です。

誤解③:鍵を持っていると所有者扱いされる
 → 所有者にはなりません。
  ただし、後で説明する「占有」と判断される場合があります。

実際に必要な“最低限の管理”とは?

難しいものはほとんどありません。ポイントはたったの4つ。

施錠・防犯のチェック
  鍵が開いたままだと、不法侵入や事件につながることがあります。

ポストの整理
 チラシが山積みだと「空き家ですよ」と宣伝しているようなもの。
 空き巣に狙われやすくなります。

草木の越境チェック
 庭木が隣の家に伸びてクレームになるケースはとても多いです。

建物の外観チェック
 台風後は特に重要です。
 屋根材が飛ぶと事故につながりかねません。

→ ここで大事なのは、
“安全を保つための最低限の確認”だけしておけばいいということ。
所有者のように細かく手入れをする必要はありません。

管理を怠るとどうなる?実際にあったトラブル

ここからは、実際にあった(または典型的な)トラブル事例です。

事例①:庭木が倒れて隣家の車を傷つけた

強風で倒れた木が隣家の車を破損し、修理代を請求されたケースがあります。
相続放棄したからといって無関係にはなりません。


事例②:不法侵入が何度も起きた

窓ガラスが割られたり、屋内で火気を使われたり…空き家では不法侵入のトラブルが繰り返し発生することがあります。
最低限の防犯対策が必要です。


事例③:自治体から「改善してください」と通知が届く

雑草やゴミの放置で、自治体から改善通知が届くことがあります。
無視すると最終的に行政代執行や費用請求につながる場合もあり、放置はリスクが大きいです。

→ つまり、
 放棄後でも完全に放置はNG。最小限の管理は必要です。

管理義務は“永遠に続く”わけではない

ここはとても重要なポイントです。

相続放棄した人の管理義務は、
次の管理者に引き継ぐまで」です。

次の管理者とは、

  • 他の相続人
  • もしくは「相続財産清算人」という専門家

のこと。

特に、家庭裁判所で相続財産清算人が選任されると、
その後の管理はすべて専門家に任せられます。

「現に占有」とは?鍵が関係する理由

「現に占有」という法律用語がありますが、簡単に言うと、

“その家を実際に使っている・管理している状態”

のことです。

例えば、以下のような行為が当てはまることがあります。

  • 鍵を持って家に出入りしている
  • 遺品整理をしている
  • 草刈りをしている
  • 光熱費の契約が自分名義のまま

光熱費の契約が自分名義のままだと、「家を利用している」と見なされやすく、占有と判断される材料になります。不要な場合は早めに名義変更をしておくと安心です。

こうした行為は「占有している」と判断される可能性があります。
ただし、占有=所有者になる、という意味ではありません。

相続放棄後は、不要な出入りや光熱費の契約を自分名義のままにすることを避けることで
トラブルを防ぐ
ことができます。

相続財産清算人が選ばれたらどうなる?

相続財産清算人が選任されると、空き家の管理や売却は専門家がすべて行います。

つまり、相続放棄した方が行うことはほとんどありません。

一般的な流れは次のとおりです。

  1. 家庭裁判所に申し立て
    清算人の選任が正式に決まります。
  2. 清算人が財産を調査し、整理
    財産整理(家や土地、預貯金など)
  3. 不動産の売却または処分
    空き家や土地は専門家が処分・売却
  4. 残った財産を国に引き渡す
    最終的には国に返される

この間、相続放棄した方は基本的に手を出す必要はなく、安心して任せられる体制になっています。

できるだけ早く管理義務を終わらせたいなら?

次のポイントを意識するとスムーズです。

◆ 清算人の選任を早めに検討する
管理義務から確実に解放される最も有効な方法です。

相続人どうしで早めに話し合う
誰かが家を占有していると、管理の引継ぎが遅れる可能性があります。

不要に家へ出入りしない
出入りが多いと占有と見なされる恐れがあります。

まとめ:相続放棄後の管理義務は正しく理解すれば怖くない

相続放棄後の管理は、

「周囲に迷惑をかけないように、最低限の安全を確保する一時的なもの」

であり、ずっと続くものではありません。

もちろん、放置してしまうとトラブルになる可能性もあるので、
状況を早めに整理したり、専門家に相談したりすることが大切です。

前回の記事と合わせて読んでいただくと、
空き家への向き合い方がよりはっきり見えてきます。